貨幣が誕生する前、私たちは貨幣を媒介せず、モノとモノとを直接交換していました。こういった交換のことを物々交換(バーター/barter)と呼びます。
例えば、ある男は芋を作っており、「芋が欲しい人はおらんのかねえ?ワシはダイヤモンドが欲しいんじゃが!」と叫びながら村を回ったとします。すると、ある女性が「私は芋が欲しいわ、ダイヤはちょうど捨てようと思ってたのよ」と答えてくれたとします。天文学的確率です。こうしたような交換が成立することを経済学では「欲望の二重の一致」と言います。しかしこれは多くの労力を要するため、非効率です。こうして貨幣が誕生したといわれているわけです。
こういった物々交換や貨幣の捉え方は、古代ギリシアのアリストテレスの頃から言及されており、ジョン・ロックやアダム・スミスなど錚々たるメンバーがこの仮説を支持してきました。
しかし文化人類学によると、この仮説は正しくないのではないかと考えられています。ケンブリッジ大学のキャロライン・ハンフリーは、「物々交換から貨幣が生まれたという事例だけではなく、純粋で単純な物々交換経済があったという事例さえ、どこにも記されていない。」(Humphrey, 1985, P48)と述べています。
では、なぜ物々交換から貨幣が生まれたという勘違いが生まれてしまったのでしょうか。フェリックス・マーティンによれば、残っている貨幣のほとんどが硬貨で、原子社会に存在したであろう信用取引、会計システムなどの無形のものは容易に失われてしまうからです。
また、物々交換は必ずしも過去の遺物ではありません。例えば、戦時中の日本でも配給が乏しくなってきたタイミングで、人々は着物や装飾品などを持って、農家を周り、物々交換を求めたのです。
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Barter Exchanges and How They Work